【イベントレポート】Transformスペシャル セッション: Feeling and Widening Your Green Zone 〜 グリーンゾーンを感じて広げる:稲刈り編 〜

2024年10月6日(日)、Transform認定ファシリテーターでもある白井さんご家族の農場「ROKKAN」とTransformによる特別イベントを開催しました。

テーマは『グリーンゾーンを感じて広げる』

参加者の皆さんが実際にどのような体験をされているのかよりビビッドにお伝えするため、今回はライターの佐々智佳子さんに依頼しセッションの体験レポートを書いていただきました。

***************************************

目次

***************************************

神奈川県唯一の盆地に広がる秦野市。南西に位置する柳川は、緑深き丹沢山地の玄関口だ。豊かな生態系を支える山林と、人の経済活動を支える盆地とをつなぐこの境域は「生き物の里」としても親しまれており、夏の夜にはゲンジボタルが乱舞するという。

この地に魅せられた白井さんご一家が移住してきたのは約3年前。寛人さん(写真中央)は里山再生を目指して田畑を耕し、森林管理にも貢献している。剛司さん(写真左)は農業を学びながら、秦野の豊かな自然環境でマインドフルネスを提供する場を開いている。


去る2024年10月6日、Transformとのコラボレーションにより、白井さんご一家が営むROKKAN秦野(秦野市柳川)の田んぼスペースにおいて稲刈りを体験するイベントが行われた。同年6月9日に植えた稲を自ら収穫するという体験を通して、グリーンゾーンを広げていく試みだった。

グリーンゾーンとは

Transformのプログラムの根幹には、自分で自分の状態をよりよく把握するのに役立ち、さらにその状態を変えるきっかけを与えてくれる「レジリエンスゾーン」という考え方がある。


ふと自分の中に今どのような感情が湧き上がっているか、そしてそれらはどのような身体感覚を伴っているのかを滞りなく観察してみた時、わたしたちは「グリーン」「レッド」「ブラック」いずれかのゾーンに属していることがわかるはずだ。


グリーンゾーンはバランスの取れた状態、レッドゾーンはアクセルを踏みすぎて過覚醒になっている状態、そしてブラックゾーンはブレーキを踏みすぎて低覚醒になっている状態を指す。


わたしたちは日々これら三つのゾーンを行き来している。グリーンゾーンにいることが好ましくはあるものの、レッドゾーンやブラックゾーンにいること自体が問題なのではない。問題は、人の世の無常においてあらゆる外的要因に刺激されつつも、いかに自分の状態を把握し、レッドやブラックゾーンからグリーンゾーンへと戻ってこられるかどうかなのである。


また、そもそもグリーンゾーンが広ければ広いほどバランスの取れた状態に留まりやすくなるのも、日々を「なんだか調子よく」過ごせる秘訣だ。

自然の中でグリーンゾーンを育む

では、どうすればグリーンゾーンを広げられるのか。これには個人差があるものの、自然の中に身を置くことは有効な手段のひとつと考えられる。
その好事例として、去る6月にROKKANで田植えを体験した参加者からは、

自然の中に身を置くと、自分の状態がよりわかるようになる

という気づきや、

アリもどろんこもダメだった娘が、午後には田んぼで楽しめるようになりました。以前はアリを見ただけでもレッドゾーンに突入していたのに、それが大丈夫になった。グリーンゾーンを広げるとは、こういうことだと思いました

という感想が届いた。実際、子どもたちの変容には目覚ましいものがあった。大人の参加者にも、度合いは違えど同質な変容が認められたのではなかったか。

【イベントレポート】Transformスペシャル セッション: Feeling and Widening Your Green Zone 〜 グリーンゾーンを感じて広げる:田植え編 〜

苦労の味

今回の稲刈りに参加したのは大人13名、子ども6名。6月に田植えを行なった人も、そうでない人も、同様に収穫に携わった。

当日朝はあいにくの曇り空で、夜どおし降った雨が黄金色の稲穂を濡らしていた。6月に植えたときにはほんの数センチしかなかったイネが、もはや子どもたちの背丈を追い越す勢いで成長していた。感謝の気持ちでいっぱいになった。


イネに群がるバッタ類や鳥類を見るにつけ、ここまで立派に実らせるまでには相当の苦労があったはずだ。白井家のみなさん、そして通年旬な農産物を提供してくださる農家の方々に、あらためて感謝した。

実際、稲刈りひとつの作業をとってみてもかなりの苦労があった。
まず、鎌で稲を根本からバッサリと刈り取った。刈ったそばから稲束を畦道に並べていく。

次に、それらを器用に麻紐でたばね、稲架(はさ)と呼ばれる欄干にかける準備をする。

もちろん稲架も手作りだ。

田んぼで体を動かし、汗を流すことには心地よい疲労感と充実感が感じられた。そうして大人たちが作業をしている間にも、子どもたちは付かず離れずその作業に見入っていたようで、ひとりの参加者いわく

娘は稲刈りは遠くから見る感じでしたが、稲架のロープワークに関心があったらしく、帰ってから今もロープワークにハマってます。どこにアンテナがあるか分からないですね。

どのような体験が子どもたちの心に響くか、わたしたちはあらかじめ知る由もない。だからこそ、稲刈り体験には意義がある。そして、信頼をおける仲間と共に作業をすることにこそ、大きな意義がある。

居場所を見つける

稲刈りの作業を挟んでマインドフルネス体験と懇親会も行われ、参加者それぞれが自分の内面に湧き上がってくる感情、身体感覚、感じていること、考えていることを率直に吐露する機会が設けられた。


思えば、多忙な生活を送っているわたしたちは、普段は近しい友人や家族にさえ「今なにを感じているか/思っているか」を報告する機会にあまり恵まれていない。そんな暇はないし、そもそもそんな話をできる環境や雰囲気が整っていないのかもしれない。

けれども、Transformのイベントに参加して毎回感じるのは、参加者同士がお互いを尊重し、信頼する気持ちと、「なんでも話してもいい」と感じさせてくれるあたたかい空気感だ。


初めての参加者にもちゃんと居場所が用意されている。それは、おそらくTransformメンバーを中心にグリーンゾーンが派生し、広がり、参加者を巻き込んでいくからではないかと思う。


だからこそ、参加者の言葉を借りるならば、「ROKKANという場所を起点に物理的に距離があったとしてもつながれているのは本当に幸せ」だと感じる。


「行く場所」が、いつしか「帰る場所」になっている。それは、参加者それぞれがROKKANに自分の居場所を見つけたからに他ならない。

生態系のつながりのなかで

奇しくもこの原稿を執筆している最中に白井寛人さんから連絡が入った。稲架にかけられた黄金の粒たちは、その後スズメの大群に「おすそ分け」されたという内容だった。

スズメたちもまた、この土地の生態系の一部です。彼らにとっても恵みの年だったのかもしれません。この事実を悔しいと感じる一方で、自然と共に生きる私たちの営みを続けていくことの意味を、より深く考えさせられました



と綴られた寛人さんのメッセージを読んで、泣き出してしまった子もいたようだ。田んぼ仕事に熱心に取り組んでいただけに、鳥の襲来に遭ったイネたちが不憫に思えたのかもしれない。子どもたちの心は、なんと共感に満ち溢れていることか。


また、別の参加者からは「自然は循環なんだということを、頭では分かっているけど身体では理解していないということを改めて感じ」、さらに「目の前の具象にだけ反応する身体・思考になっていて、色々なことを循環や背景も含めて拡張して捉えられていないんだなと感じた」という声が届いた。

自分以外のもっと大きなものとの繋がりの中でセルフアウェアネスを広げる豊かな学びをさせていただき、感謝でいっぱいです

と締めくくられていたのが印象的だった。参加者にとって、ROKKANでの田植えと稲刈りは、きっとその日かぎりのイベントではないのだ。

柳川で過ごした体験は、参加者各々の心にグリーンゾーンの種を蒔いたのかもしれない。その後も写真を見たり、思い出を語り合ったり、スズメの啼き声が耳に入ってきたりするたびに、それぞれのグリーンゾーンは広がり続け、過覚醒でも低覚醒でもない、ちょうどバランスの取れた状態にいられる機会を与え続けてくれているのではないだろうか。

ごはん一膳のありがたみ

白井寛人さんからのメッセージには続きがあった。ROKKANで収穫したお米の注文に関してだ。寛人さんのSNS投稿いわく、収穫した「ハルミ」種のお米は甘さ、風味、そして噛んだときの粘りがしっかりと感じられる美味しいお米に仕上がっているとのこと。どうりでスズメたちが病みつきになるわけである。

筆者も玄米を注文した。店にあたりまえのように陳列されている米を買ってきては炊き、あたりまえのように口に運んでいた想像力に乏しい日常を一気に吹き飛ばしてくれるような味になるだろうと期待している。今から届くのが楽しみだ。

(写真・文:佐々智佳子)