
グリーンゾーン・リーダーシップ―「人の役に立ちたい」から「人を育てるリーダー」へ
グローバルな投資会社、カーライルのパートナーとして、日本における投資家関連業務の責任者を務める三井麻紀さんは、二児の母としての日々も両立してきました。子供の病気や親の介護といった人生の転機、そしてコロナ禍を経て、「人生の次のステージに進むためには外部のサポートが必要だ」と感じ、Transformのプログラムに参加。セッションでの気づきやジェレミー・ハンターとの対話を通じて、自身の根源的な願いである「人の役に立ちたい」という思いを軸にした、独自のリーダーシップを形づくっていきました。本記事では、三井さんがどのように変化し、周囲にポジティブな影響を広げているのか、その軌跡を辿ります。
人の成長に喜びを感じるリーダー
三井さんは、英語の先生になりたいという夢を抱いていましたが、大学時代の塾講師の経験を通して、「自分自身がもっと学んでからでないと他人を教えることは出来ない。一対一で向かい合う家庭教師は出来ても、複数の生徒を同時に相手にすることが苦手」と感じ、その夢を一度手放すことに。しかしキャリアを重ねた今、リーダーとして「成長をサポートすることで、チームのインパクト強化へと繋げていくこと」に大きな喜びを感じていると言います。
「人がポジティブに変化していく姿を見るのが嬉しいのです。誰もが何らかの悩みや葛藤を抱えていますが、自分に向き合い、心身共に整えることで心持ちが変わり、不思議と表情が明るくなり、それが行動にも表れます。だからこそ、Transformのプログラム導入を会社へ薦めました」と三井さん。そして続けて、
「教えるのではなく、心にそっと火を灯す感覚です。 些細なきっかけや、何げない会話を通じて、以前よりも自信を持って行動するようになる姿を見ると、幸せのお裾分けを貰えたような温かい気持ちになります」と、その想いを伝えてくれました。
「私は個人としてTransformのセルフ・アウェアネスのプログラムやワークショップに参加しましたが、自分のことを理解し、身体の小さな反応にも注意を向けるようになったことで、肩の力が徐々に抜けて行きました。 社会のプレッシャーや理想という幻を自分で作り上げていたことにも気付いたことで、仕事だけでなくプライベートでのストレスも軽減されて自信を取り戻し、やりたい事を実行に移し始めた自分がいました。」そして、「Transformのプログラムは、自分を前に進めるための効果的な手段になり得る」と、三井
さんは確信するようになりました。
以前は、上手くいかないことがあると自分を責めて落ち込み、周囲には何もなかったようにふるまうという、インポスター症候群の傾向が強かった自分にも気づいたそうです。「本質的に必要なのは、まず自分自身を客観的に見つめて受け入れること、そして身体のサインにも気付くこと。 そうすると心に余裕が生まれるのです。」余裕を持てるようになったことで、失敗を学びの機会であると捉えてオープンになり、周りとの信頼関係が以前よりも強くなっただけでなく、日々の生活でもコミュニケーションがよりスムーズになっている感覚があるそうです。
三井さん:
「自分自身をうまくマネジメントできるようになると、まわりも自然と良い方向へと動きはじめるのです」
ジェレミー:
「これはセラピーでもカウンセリングでもなく、21世紀の組織に必要な意識の発達であり、リーダーシップなのです。内的な世界のコンサルティングですね。」
Transformは、あなた自身の軸に戻るためのサポーター
プログラムに参加する前、三井さんは「なりたい姿はあるのに、行動に移せていない」という壁にぶつかっていました。「Tansformでの経験や他の参加者との対話を通じて、自分の本来の姿に戻っていくような感覚でした」と振り返ります。
三井さん:
「コーチングでもカウンセリングでもない、特別な体験でした。『こうすればよいのでは』『あれをしなさい』と言われたことは一度もなく、導かれるように今の自分自身に集中したことで、自分の意図に意識を向け続けることが出来るようになりました。」
このセッションを通して、三井さんは自分の考えを整理し、人生で本当に実現したいことを明確にして、アクションするステージへ入ることができたのです。
指示より信頼が人を動かす。自分らしいリーダーシップのかたちへ
Transformでの学びを通じて、三井さんは「リーダーは必ずしも先頭に立って強く人を引っ張る存在である必要はない」という大切な気づきを得ました。
「私は指示を出して多くの人を一斉に動かせるタイプではありません。ビジョンの共有はしますが、人が自分で考え、成長していくのをサポートすることが中心です」と語る三井さんは、自分なりのスタイルを受け入れるようになりました。
そして、「本来の実力を発揮しやすい環境を作ることを心掛け、信頼をベースとしたコミュニケーションを大切にし、協働するカルチャーを醸成することに注力しています。 メンバーが1x1=1ではなく、2以上の結果が出せるという成功体験を重ねることで、チーム力も強化される」という、自分らしいリーダーシップでいいのだと確信したのです。
ふと、長らく直属の上司だった、米国本社にいる共同創業者のデイビッド・ルーベンシュタインのことを思い出します。「彼からは一度も『こうしなさい』と言われたことはありません。私を信頼し、完全に任せてくれたのです」。そして、サポートやアドバイスを求めれば、必ず返事をくれ、時には励ましとなる言葉もかけてくれたそうです。
「上司に指示を求めて、それに従って行動することは簡単ですが、自分で考えて行動する方が、遥かに大きな力となりますし、自己成長は仕事の楽しさにもつながります。」その経験と学びがあったからこそ、三井さんはリーダーシップにはサポートをメインとするスタイルもあると気づいたのでした。
静かな影響力
自分の状況をレッド・グリーン・ブラックゾーンという概念で捉えるようになったことで、自分の内面の状態を把握しやすくなっただけでなく、相手の置かれている状態にもより敏感に気づけるようになったと、三井さんは続けます。
「自分自身がグリーンゾーンにいることの大切さを認識すると共に、他人にも良い効果をもたらすことを実感しました。今では相手のペースに巻き込まれることが少なくなり、逆にその人がどのゾーンにいるのか観察することが多少なりとも出来るようになりました。」
日頃のビジネスシーンでは全員が男性、あるいは外国人のみという場面が多いそうですが、「顧客重役を訪問した際に私だけ女性だからか名刺をもらえない経験が何度かあり、それがトラウマになっていました。存在自体を否定されて、透明人間になったような感覚です。 また、海外の同僚との英語でのやり取りに、帰国子女でない私はハンディを感じただけでなく、意見を積極的に述べるというカルチャーの違いにも圧倒され、場の雰囲気に萎縮して一言も発言出来ずに落ち込む、というネガティブなスパイラルに陥ることも多々ありました。」英語のスピーチ教室へ通うなどの努力はしたものの、ブラックゾーンへ入り込んでしまう傾向の解消にはいたらなかったそうです。
それが今では、高圧的な態度に直面したり、困難な会話が予想される局面となっても、三井さんは怒りや反発、落ち込みの気持ちを持たず、まずは自分の内面が揺らがないように心掛けることが出来るようになりました。「自分自身がグリーンゾーンに留まることで心に余白が生まれ、『相手がレッドゾーンに入っているのかもしれない』『双方がグリーンゾーンいられる会話の進め方は何か』と落ち着いて対処できるようになりました。」
自分の思考が変わったことで周りとの距離感も縮まり、相手のゾーンが変わる瞬間を楽しむようになったそうです。 「自分がブラックやレッド・ゾーンに入り込んだことで、グリーン・ゾーンで事態を好転させる機会を遮断していたことに気付きました。」 最近では、海外の同僚との距離が縮まり、時には悩みを打ち明けられるなどプライベートな話をすることも増えているそうです。
三井さん:
「自分の心に余白をもちながら落ち着いて対処すると、相手が心を開いてくれるようになるのです。ある程度時間が必要な場合もありますが、お互いがグリーンゾーンにいることで信頼関係が醸成されて、ゾーン自体が広がっていく感覚もあります。」
それはまさに、「静かな影響力」。
ジェレミー:
「怒りではなく、穏やかな心で相手を変えていける──それがあなたのスーパーパワーなのです。争うゲームに加わるのではなく、相手の気持ちをそっと変えていく。それが、あなたらしいリーダーシップのかたちですね。」
組織は、リーダーの内側から始まる
「もし自分がストレスや緊張感を持ったままリードしていたら、その緊張感は周りにも伝わってしまう」──そう気づいた三井さん。
だからこそ、グリーンゾーンに戻り、その状態を広げていくことを意識し続けた結果、緊張した場面でも落ち着いて対応できる内側のスペースが育っていきました。
今では、相手がグリーンゾーンから行動できるようサポートすることも出来つつあるといいます。
三井さん:
「私は、心理的安全性が高く、オープンなコミュニケーションが出来るカルチャーを大切にしています。場の雰囲気が整えば、メンバー自身が考え、行動するようになり、それがチーム全体のグリーンゾーンを広げてくれるのです」。
ジェレミー:
「グリーンゾーンのリーダーは、チームの知性を育てる。まさに、あなたがやっていることですよ」。
Transformのプログラムへの参加を通じて、三井さんのグリーンゾーンはさらに広がっていきました。
グリーンゾーンのリーダーは、より多くのグリーンゾーンを生み出す
大切なチームメンバーが二度目の産休に入るにあたり、三井さんは「家族を犠牲にしてまで仕事に戻る」状況は作り出さず、それでも仕事へのコミットメントが自然と保たれるような状態をつくりたいと考えました。
グリーンゾーンにいることが最も大切だと考えていた三井さんは、迷惑を掛けたくないという気持ちが強いそのメンバーに対して、「会社にとって最も大切なのは無事に出産をして復帰してくれること。家族の新しいリズムが整うタイミングは個々に違うので、自分にとってベストな産休期間を決めてくれれば、会社もそれをサポートする」と伝えました。
仕事に対する責任感から復職のタイミングを当初の計画より早めようとしていた彼女に対し、感謝の気持ちは伝えながらも、「家族のバランスが崩れて仕事に集中できなくなると、何よりもあなた自身が苦しむことになるので、そのタイミングが本当にベストなのか今一度考えて欲しい」と伝えました。 その結果、当初の予定通りに復職し、初日から責任ある仕事を積極的に、そしていきいきと取り組んでいる姿がありました。
三井さん:
「私は彼女が妊娠中、そして復帰後しばらく『仕事は楽しい?』『あなた自身は元気? 自分のケアを忘れないで』と声をかけるようにしていました。『子育ても、仕事もすごく楽しいです』との言葉が返ってきた時は本当に嬉しかったです。彼女が成長していく姿があることは、チームにも良い影響を与えています」。それはまさに、「人が育っていく喜び」を感じる瞬間。
ジェレミー:
「グリーンゾーンリーダーは、自分だけでなく、それを周囲に広げていくのです」
次世代へのメッセージ:人生を豊かにしたいなら、まず自分を変えよう。
最後に、三井さんはこう語ります:
「まず自分の心だけでなく身体の状態も整えること。そうすることで心にスペースが生まれて選択肢が増え、自分が実現したいと思っている所へと近づく助けになります。 周りとの関係性も良くなり、人生に多くの喜びや充実感をもたらしてくれるのです。」
プロフィール
三井 麻紀(みつい まき)
グローバルな投資会社、カーライルのパートナーで、日本における投資家関連業務の責任者。業界団体やNPO活動にも積極的に関わり、DEI推進のリーダーとしても活躍。プライベートでは二児の母。
三井さん、お忙しい中、快くインタビューを受けていただきありがとうございました。
