「何がしたい?」の問いがくれた転機─意図を持って行動するリーダーへ

問い直された「自分が本当にしたいこと」

日本発のグローバル化粧品メーカーで20年以上にわたり研究開発のキャリアを歩んできた豊田さんは、ヘアケアやヘアスタイリング製品の開発をはじめ、人材育成、技術戦略の立案・推進など、モノ・人・戦略にまたがる多様な業務に携わってきました。現在は、一般顧客が来館できる研究施設の運営チームに所属し、生活者との共創を目指した新たな製品開発の仕組みやプロセス設計、PMOを担っています。

社内で成果を出し、周囲の期待に応え続けてきた一方で、豊田さんの中には次第に

「このままの自分でいいのか? 自分のやりたいことをやれているのか?」

という違和感が膨らんでいきました。

そんな中、ある日、上司との1on1の会話でダイレクトに投げかけられた問いが、豊田さんの人生の転機となります。

「君は何がしたい?」

「あれ、答えられないぞ」と思った豊田さん。自分が何をやりたいか、はっきり言えなかったといいます。

上司には、豊田さんが期待に応えようと無理をしているように見えていたようです。

この問いかけは、豊田さんにとって

「今の自分の行動の意図ってなんだろう?」

と立ち止まる、非常にインパクトのあるきっかけとなりました。

Transformのプログラムへの参加を通じて、自分の思考や行動のクセを丁寧に紐解きながら、豊田さんは「意図を軸にした新しいありかた」を探求してきました。

本記事では、豊田さんがどのようにして内面のモヤモヤを言語化し、実践へとつなげていったのか。その変化のプロセスと、仕事や人間関係への影響をたどっていきます。


「誰かに否定されないように」という無意識の意図

このタイミングでTransformのプログラムに参加した豊田さんは、自身の思考の癖や行動パターンを客観的に捉え直す必要性を感じ、「まずは今の自分をしっかり理解したい」と考えたそうです。

まず、Step 1セルフマネジメントプログラムIRマップ)に触れ、自分に起きている事象や望まない結果の構造を自分で分解・理解できるという大きな気づきを得たといいます。

「「ひとつひとつの行動に自分で意図を持ってやっていたんだっけ」と振り返ると、多分そうじゃなかった。来たものをそのまま頑張ります、と、外側からの期待に打ち返していく行動パターンをとっていたことに気づきました。」

さらに、自身の無意識の目的が

「他人に否定的に言われないようにすること」

にあったことにも気づきます。

幼少期からの積み重ねにより、「これを言うと、人はこういう反応になるだろう」と過剰に気を使い、準備に時間をかけ、結果的に疲弊してしまうパターンがあったと、豊田さんはいいます。

また、物事を否定的に捉えがちで、「変な想像を膨らませて」未来を描き一歩を踏み出せないでいる自分にも気づき、ネガティブな思考に陥った際には「今そこにフォーカスすべきなのか?」と自問できるようにもなりました。

「今までは、無意識に動いてしまっていたから、同じ結果になっていたんだと思います。」

このように、自分の思考や行動のパターンを解釈できるようになったことが、Step 1プログラムでの大きな学びだったといいます。


変化の兆し:軽やかな行動と関係性の改善

自己理解の解像度が上がったことで、豊田さんの行動に変化が現れます。

以前は物事に対してあまり立ち止まって考えることがありませんでしたが、今では「日々の中で小さなことでも、何がしたいのかを考えて行動する回数が増えている」と言います。

一方で、プログラムで得た

「まずは行動」「考えすぎない方がいい」

というアドバイスを意識的に実践するようになりました。

「起こってもいないことを先の先まで考えがちだったので、『本当にそうなるかなんてわからない』と、とりあえず進めてみるスタンスがだいぶ取れるようになりました。」

この変化は、周囲との関係性にも波及していきます。

「仕事をする人たちの見え方が変わってきました。その人のイメージ(例:この人は面倒くさい反応をしてくるに違いない )を勝手に作っていたのは自分だと気づいたんです。」

さらに、上司との関係性も変化しました。

以前は「もっと準備してから持っていかないと迷惑になる」と考えていたのが、今では「無理なところは無理」と伝えるようになったり、まずは伝えてみるというスタンスに。

結果として物事が進むスピードが早まり、エネルギーを無駄に浪費することも減り、一つ一つのタスクにかける時間も減ったとのこと。

古いパターンに戻ってしまうことがあっても、『以前のパターンに戻っている』と気づけるようになったことも大きな変化だ」と、豊田さんは言います。


キャリア20年目の問い:「モノ」と「人」を軸に、広がる選択肢

豊田さんはStep 3(トランジションプログラム)に進み、さらに探求を深めています。

例えば、会社や家族、社会が変化するなかで、豊田さん自身にもこんな問いが生まれました。

「社会人20年目の自分が、若い頃と同じ仕事の同じ向き合い方でいいのだろうか?」

Step 3プログラムでは、参加者との交流を通じて自身の視点が狭くなっていたこと、そして世の中には多様な選択肢があることを強く実感したそうです。

「仕事との向き合い方はこういうものである、と勝手に選択肢を狭めていたことに気づきました。思っている以上に、世の中、選択肢はいろいろある。」

上司から問われた「何がしたい?」という明確な答えはまだ探求中ですが、プログラムを進める中で、以前、上司との面談で部署異動をリクエストしたときの感覚がふとよみがえったといいます。

「どんな意図があって、『いろんな経験をさせて欲しい』と過去に言ったんだっけ?と考えたとき、やっぱり『ものを作りたかった』という自分の軸に気づいたんです。」

現在は、ものづくりに関わる仕事の面白さを再認識すると同時に、人材育成の経験から「人を盛り上げること」にもやりがいを感じているそうです。

「「モノ」と「人」という二つの軸が、自分にとっての大事なキーワードであると再認識する機会にもなりました。」

Step 3プログラムでは、まだ手放せていない過去を手放すために、その「テーマにおける象徴的な何か」を物理的に捨てるというセレモニーがあります。ここで豊田さんは、自分が過去に開発に関わり、ずっと自分の近くに置いてきた「ヒット作の商品」を手放すというワークに取り組みました。

これは、自分が大切にしてきた過去の成功への執着を手放し、純粋な「ものづくり」への回帰を促すものだったといいます。

「何かを『自分でつくる』方に進みたいのか、それとも『人を支えて、一緒に成し遂げる』方が自分に合っているのか…。今、ちょうどその分岐点に立っている感覚があります。」

プログラム終了後も、豊田さんは有志メンバーとの月1回の共有会を継続。呼吸のエクササイズやアプリシエーションリスト(感謝のリスト)にも意識的に取り組んでいます。

「まだ道半ばですが、自分の意図をクリアにして選択肢を変えていくことで、自分自分で変化を起こせるという考え方に出会ったことが最も大きなことです。」


プロフィール

豊田智規さん

大手化粧品メーカーにて、研究開発職として20年以上のキャリアを持つ。
ヘアケア・スタイリング製品の開発をはじめ、技術戦略立案や人材育成にも従事。
現在は、生活者との共創を目指した製品開発の仕組み設計やPMOを担当。
同社は世界120以上の国と地域に事業を展開しており、美に関する幅広い領域でグローバルに展開している。