【イベントレポート】Transformスペシャル セッション: Feeling and Widening Your Green Zone 〜 グリーンゾーンを感じて広げる:田植え編 〜

2024年6月9日(日)、Transform認定ファシリテーターでもある白井さんご家族の農場「ROKKAN」とTransformによる特別イベントを開催しました。


テーマは『グリーンゾーンを感じて広げる』


参加者の皆さんが実際にどのような体験をされているのかよりビビッドにお伝えするため、今回はライターの佐々智佳子さんに依頼しセッションの体験レポートを書いていただきました。


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一面の緑。陽射しをたっぷりと浴びて、育ちざかりのイネが勢いよく葉を茂らせている。
ゆたかな田園風景に彩られたこの土地が、数年前まで耕作放棄地だったとはおよそ想像しがたい。

神奈川県秦野市にある白井さんご家族の農場は、約3年前に弟の寛人さん(写真中央)が土地を見つけて移住。半年以内に剛司さん(写真左)、そして妹夫婦やご両親も続けて移住してきて運営している(今季で3シーズン目)。


寛人さんは里山再生を目指して田畑を耕し、森林を管理。剛司さんは農業を学びながら、農場や丹沢の森林などの自然の環境でのマインドフルネスを提供する場を開いている。兄弟・家族で自然と人間に心地よい緑地を開拓し続けている。


去る2024年6月9日(日)、ROKKANとTransformとのコラボレーションにより、有志による田植え体験が実現した。自然の中に身を置くことでグリーンゾーンを広げていくという試みは、果たして参加者のなかでどのように芽吹き、どんな成長ぶりを見せたのだろうか。


田植え当日の様子と、2ヶ月あまりを過ぎた今に続く心の変化を追った。

グリーンゾーンとは

Transformのプログラムの根幹には、自分で自分の状態をよりよく把握するのに役立ち、さらにその状態を変えるきっかけを与えてくれる「レジリエンスゾーン」という考え方がある。


プログラム参加者にはもはや馴染み深い「グリーンゾーン」という言葉。グリーンゾーンは、バランスの取れた好ましい状態だ。内なるエネルギーをありありと感じることができ、他者との協働を促進する。


対してレッドゾーンはアクセルを踏みすぎて過覚醒になっている状態、そしてブラックゾーンはブレーキを踏みすぎて、あるいはエネルギーが枯渇して低覚醒になっている状態を指す。


わたしたちは日々これら三つのゾーンの間を行き来している。グリーンゾーンにいることが好ましくはあるものの、レッドゾーンやブラックゾーンにいること自体が問題なのではない。問題は、変化に富んだ日常においてあらゆる外的要因に刺激されつつも、いかに自分の状態を把握し、レッドやブラックゾーンからグリーンゾーンへと戻ってこられるかどうかである。


また、それはいかに自分のグリーンゾーンを広げていくかということでもある。
その糸口を探すために、わたしたちは緑ゆたかな秦野の地へと向かった。

「稲」ではなく「田」を植える

「代かき」を行う白井寛人さん

田んぼは、深い緑に囲まれていた。参加者には子どもたちも数名含まれており、さっそく生き物探しが始まった。オタマジャクシが行き交う姿に目を見張る子もいた。


「田植え」とはたくさんの生物が拠り所としている田んぼに息を吹き込むことなのだ、とそんな子どもたちの姿を見ながらあらためて実感した。水を引いた田んぼには、アマガエルやガマガエル、トンボ、タガメ、ゲンゴロウやカワニナまで、数多の命が息づいていた。

もちろん、田植えは日本人の食の要である米をつくることでもある。


「米」という字は「八十八」から成り立っている。農民が八十八回手をかけてはじめて実りが得られる作物なのだと、昔から言われてきたという。


日本に米が渡来したルートは諸説あるものの、時期的には縄文時代晩期から弥生時代に入る紀元前2年〜300年ごろを中心に渡ってきたとされている。ざっと2000年の歴史を持つ稲作が、さほど変わらない方法で今日に至るまで続けられてきた理由は、きっとこれ以上改良できないからなのだろう。


先人の知恵の集大成として日本文化に根付いている田植えを、こうして体験させていただけることにありがたみを感じた。

泥に浸かる

いにしえから受け継がれてきた田植えは、しかし大変な労力を要するものだった。田んぼの泥は深く、重い。歩こうとするだけでも足を取られそうになる。


参加者のひとりはこう振り返っている。

田んぼに裸足で入ったときの感触の気持ち悪さは…かなりのレッドでした(笑)新感覚!ですが、5分も経つと慣れてきて、全く気持ち悪さはなくなりました。それってグリーンゾーンが広がったということですよね。


その新感覚に慣れてきたところで、いよいよ田植えが始まった。

寛人さんの手掛ける実験的な試みとして「縄文式」の田植えを行なっている。通常よりも苗と苗の間隔を開けると、風通しが良くなり、株が大きく育ちやすいのだという。成長が楽しみだと寛人さんが話してくださった。


今回植えたのは神奈川県平塚市で生まれたお米「はるみ」。一株ひと株、「大きく育ちますように」と想いを込めながら、泥の中に挿していった。

子どもたちの変容

こうして大人たちが真剣に田植えに挑戦している間にも、子どもたちの様子は刻一刻と変化していった。はじめから楽しそうに泥の中へ全力でダイブしていく子もいたが、なかには泥を嫌がり、泣き出してしまう子もいた。参加者曰く、

文字通りのTransformを娘が体感させてくれました。虫や泥に慣れていない娘は田んぼに到着してすぐに「もう家に帰る」と大泣き…。


ところが、その子は午後には顔に泥がついてもへっちゃらになり、自然を相手に全力で遊んでいたのだ。たったの数時間のうちに驚くべき変容が起こっていた。


子どもたちの感受性の高さと順応力には驚かされるばかりだった。それと同時に、幼い頃からこうして自然の中で五感を養うことは、すなわちグリーンゾーンを広げていくことにもつながるのではないかとも考えさせられた。

カレーと団らんと生ハムと

田植え後のお楽しみは、フレンチシェフによるグランピングスタイル・ランチ。実は、寛人さんは食のプロでもあるのだ。

屋外で楽しむ食事はまた格別!しかも、楽しい仲間と共ににぎやかに。

寛人さんのの心のこもった「おもてなし」という最高の味つけを施された、最高のお料理だった。

自然を愉しむ


昼食後はボディワークか自然散策を選択し、それぞれのグループに分かれてアクティビティを行なった。

Transform認定ファシリテーターで、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)認定講師でもある剛司さんが、「ボディスキャン」のセッションをリードしてくださった。

ボディワークは、自然の中で大の大人が寝転がって意識を失ってもOKな状況、というのが普通ではあり得ず、とても貴重で感謝しています。自然の音に囲まれて、本来自然の一部である自分の身体に意識を向けることができました。


参加者の感想だ。秦野の里山に抱かれてこその、極上のリラックス体験だったようだ。

振り返りのダイアローグ

盛りだくさんの一日も終盤にさしかかったところで、Transform共同経営者/パートナーである稲墻聡一郎さんのリードにより、参加者同士がお互いの気づきや学びを共有する時間が設けられた。

テーマは「グリーンゾーンを広げていく」。

ある参加者は、お子さんの変化に驚きを隠せない様子でこう語ってくださった。「アリもどろんこもダメだった娘が、午後には田んぼで楽しめるようになりました。以前はアリを見ただけでもレッドゾーンに突入していたのに、それが大丈夫になった。グリーンゾーンを広げるとは、こういうことだと思いました。」

また、別の参加者が「自然の中に身を置くと、自分の状態がよりわかるようになる」と話してくださったのも印象的だった。

剛司さんが共有してくださった気づきも非常に興味深い。

「子どもたちの様子を見ていて、レッドゾーンとグリーンゾーンとの間にはっきりと区切りがあるわけではなくて “レッドとグリーンのかけ合わせゾーン” があり、あそびがあると感じた。」

寛人さんは、参加者一人ひとりが真剣に田植えに向かっている様子に心を打たれたそうだ。そして、「一生懸命に植えると、イネにその気持ちが伝わる。皆さんの思いを入れていただいた大切なイネを、これから大事に育てていきます」と話してくださった。

現代のオアシス

こうして、振り返りのダイアローグを最後に、ほぼ丸一日楽しんだ田植えイベントは終了した。こんなに長い時間を屋外で過ごしたのは、個人的にはコロナ以前ぶりだったかもしれない。


時がゆるやかに過ぎていく中で、午後には雨が降ったり、テントのすぐそばで鳥が啼き始めたりと、田んぼを囲む自然は常に変化していた。そして、その変化に呼応するように、自分の内なる状態もまた絶えず変化していたことを意識できた。

アブ(?)に腕を刺されてレッドゾーンへ突入したりもしたが、不思議とすぐにグリーンゾーンへ戻れたというのもリアルな体験だった。おそらく、自然という変化に抗うことを手放せたからなのだと思う。雨に濡れてもまあいいや、と思えたらふっと楽観的になり、雨に打たれる田んぼの美しさやアマガエルの合唱に意識が向くようになった。


また、自然の中で過ごしてみて、一緒にいた人々との連帯感が強化されたように感じた。思えば田植えという営み自体、人ひとりで到底こなせるものではない。集団で協力して行うからこそ、広い田んぼを耕し、八十八回手をかけて、やがて黄金の実りを手にすることができる。


インターネット、スマホ、テレビ、広告…情報の波が絶えず寄せては返し、わたしたちの意識もその流れに翻弄されがちな現代社会である。自然の中でまずはありのまま、素のままの自分を取り戻すこと。そして、そこからあらためて自分自身と向き合い、自分の望む結果を自覚できたことが、グリーンゾーンを広げることにつながったと確信した。そのおかげで、東京へ帰ってきた今も、「いつもなんだかいい状態にいる自分」をおおむねキープできている。


白井さん家族の営むフィールドはそんな気づきを与えてくれる、心の拠り所。稲が穂を垂れる頃に、ぜひまた訪れたい。

(写真・文:佐々智佳子)


参加者の声

Q. セッションに参加していかがでしたか?
◆ 大人も子供も両方楽しめるイベントはとても貴重で、素晴らしい時間を過ごせました。
◆ パソコンの中にある用事等々、バーチャルなことを一切忘れて、自然の中に身を置いて自分の五感に贅沢な時間、同時に、1人でなく、楽しい繋がりがあること、両方が揃って、とても充実したひとときでした。

Q. どのような発見や気づきがありましたか?
◆ 自分自身の想定を超えた事柄をどう受け止めるのか。出来る限り自然の生態系を活かした形で取り組むあの田んぼ(環境)に身を置いたからこそだと思うのです。やっぱり自然が教えてくれることって沢山ありますね。
◆ 朝は泥を嫌がって泣いていた娘が、夕方には全身泥だらけで田んぼで遊ぶまでの変化を見ながら、大人が変な介入をしなくても、安心さえあれば、自然と良いところに行きつくのだなと感じると共に、日ごろ如何に余計な一言二言三言を言っているか、を振り返る1日となりました。
◆ 今回に限らず、どんなことであっても、無知=正しい準備すらできないことなのだと気づきました。これを機に、いろいろな経験からの視野を広げて行けたらなと思っています。

Q. 田植えについて印象に残ったことや、ご意見ご感想などあれば教えてください。
◆ 田植え体験だけでも楽しかったのですが、ひろとさんの素晴らしいお料理まで楽しめて、ご褒美のような1日でした。 子どもが小さいとなかなかレストランに行く機会もないので、 自然体験+美味しいお料理で大変癒されました。
◆ お米に対するありがたさを感じました。今まで、もちろんお米も食べ物もありがたいと思っていたのですが、ちょっと次元の違うありがたさを感じました。