【イベントレポート】有松日本遺産記念シンポジウム 後世に語り継ぎたい有松の美~日本遺産有松の未来30年のために~

3月21日に愛知県有松で行われたイベント「有松日本遺産記念シンポジウム 後世に語り継ぎたい有松の美~日本遺産有松の未来30年のために~」でジェレミー・ハンターが「美」をテーマに基調講演を行いました。

 

このシンポジウムは、有松の文化・伝統を語るストーリー「江戸時代の情緒に触れる絞りの産地-藍染が風にゆれる町 有松-」が名古屋市として初の日本遺産認定を受け、染色家の藤井ショウジ氏が中心となり開催されました。かねてよりジェレミーと交流のあった藤井氏が、これからの有松の伝統を繋ぐ上でセルフマネジメントの考え方が大切であると考え、この基調講演が実現しました。

 

伝統と変化のバランスを保ちながら有松絞の美しさを通じて喜びを生み出す

 

日本における「美」はどのようなものか。

日本の版画や建築が西洋絵画や建築に影響を及ぼし、その日本の影響を受けた西洋の作品を日本人が「美しい」と感じ、和の作品に取り入れていることはご存じでしょうか。例えば「ひまわり」で有名な画家フィンセント・ファン・ゴッホの作品の数々、アメリカの有名建築家フランク・ロイド・ライトは日本の版画や日本家屋の影響を受けているといいます。

私達日本人は、日常的に接しているものを「美しいもの」として捉えずにマインドレスネス(自動操縦状態)になっている、どれだけ日本に既にあるものが美しいかを知って欲しいとジェレミーは言います。

 

有松絞りは400年以上の伝統ある染色技法です。おそらく誰しも一度は目にしたことがある豆絞りの手ぬぐい。現在ではプリント製のものが多く出回っていますが、元々は有松の職人達が伝統技法によって染めてできたものです。

よく目にする豆絞りでも、職人が手作業で染め上げた豆絞りは素晴らしく、伝統のなせる業だと感じます。一方で、同じデザイン、同じやりかただけで継続していくことは、変化の早い今の時代は特に難しいことです。

 

伝統が秩序を保ち安定をはかるが、それだけだと変化に適応できない。
一方で、変化ばかりしていくと無秩序で安定しない。

この伝統の持つ秩序と変化への適応のバランスが今後の有松には大切だとジェレミーは話します。400年続く中でも、400年間最初から今まで全く同じではなく、伝統は守りつつ変化に適応したからこそ、長い間受け継がれてきたのです。

 

—ドラッカー5つの質問

 

講演では400年続いてきた有松だからこそ改めて今考える必要があるとして、ドラッカーの5つの質問

① 我々のミッションは何か

② 我々の顧客はだれか

③ 顧客は何に価値を置くのか

④ 我々にとっての成果は何か

⑤ 我々の計画は何か

を参加者に問いかけ、「①我々のミッションは何か」と「③顧客は何に価値を置くのか」にフォーカスし、参加者同士の対話時間も設けながら「有松の価値」を考えました。

 

有松の価値は伝統や染色だけではなく、「美しいものを見た人が感じる感動や喜び」だと言います。ではこの先どのように、人に感動や喜びを感じてもらうのか?

 

シンポジウムが進むにつれて参加者の皆さんの表情がどんどん変わり、有松を担う人たちにとっての新たな気づきになったように感じます。

 

伝統と変化に対するトランジション。今後に向けて「美」を継続していくために、何を終わらせて、何を残し、何を新しくしていくのか、それをぜひ考えて欲しいとジェレミーは最後に締めくくりました。

 

 

— 有松絞に関わるからこそ感じるそれぞれの「美」

 

後半のパネルディスカッションでは、有松に深くかかわる方々が登壇し、それぞれが感じる「美」について話をされました。

 

有松の街並みの魅力、染物としての色や柄だけでなく光の変化による美しさ、海外にデザイナーとして拠点を置きながら有松で制作するからこそ感じる有松の良さ。

パネラーそれぞれの視点から語られる言葉の一つ一つが有松に対する愛に溢れていました。

中でも印象的だったのは、ドイツに拠点を置いて活動している村瀬氏の感じる3つの美、

①継続、②循環、③生活というものでした。

 

古い町並みが残るヨーロッパで消えるものも数多く目の当たりにするからこそ、長く続く有松の素晴らしさ、素晴らしいから残っているという感覚。

昔ながらの職人から若い新しい世代に受け継がれる技術の循環。

有松絞りという伝統があるからこそ残る街並みやそこに住む人たちが創り出す生活。

 

有松の地で生まれ、染色が身近なものとしてあり続けながら海外からの視点で感じる村瀬氏ならではの「美」でした。

 

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このシンポジウムはリアルとオンラインのハイブリット方式で開催され、共に多くの方が来場・視聴されました。これもまたアナログとデジタルのバランスで成り立ち、それぞれの良さや特性を生かした「美」だと感じるイベントとなりました。