【イベントレポート】「本音が、変容のはじまりだった」〜 セルフマネジメントの力を語る、ジェレミー・ハンター×吉岡芳明さん対談 〜

去る2025年3月7日、Transform共同経営者ジェレミー・ハンターと、Transformの全プログラムをプライベートでも会社としても導入してきた株式会社 TO NINE 共同代表取締役 吉岡芳明さんとの対談イベントを実施しました。

1月初旬に起きたアメリカ・ロサンゼルスの山火事で自宅が全焼してしまったジェレミー。カオスの中での来日ということで、心配していた多くの方々も会場にお越しいただき、非常に温かな雰囲気の中で対談が行われました。

本記事では、その対談の様子を、ライター・佐々智佳子さんによるレポートでお届けします。

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2025年3月7日、Transformが主催するトークイベント『セルフマネジメントと組織の成長:自分を知り、相手を知ることで高まるパフォーマンス』が開催された。登壇したのはTransform共同経営者ジェレミー・ハンターと、Transformが提供するプログラムの受講者であり、スタートアップ企業の経営に携わる吉岡芳明さんだ。

テーマは「セルフマネジメントとトランジション(変容)」。仕事や家庭、リーダーとしてのあり方に揺れる日々の中で、吉岡さんはどのようにして自分と向き合い、変わっていけたのか?

笑いと共感、そして時に深い内省を促す沈黙を交えながら語られた二人の対話は、わたしたちにセルフマネジメントの真価を問いかけてくる内容だった。

今回ゲストとして登壇した吉岡さんはサイバーエージェント・グループで新規事業を担当した後、2016年にTO NINEに参画し、アパレル・コスメ・フード・日用品をはじめとする100社以上の企業に対してブランディング支援を実施してきた。また、2020年からはTO NINEにおいてスキン&マインドケアブランド「SENN」を展開。現在では音声配信プラットフォームVoicy(ボイシー)においてSENN radioのパーソナリティも務める。

吉岡さんはこれまでTransformが提供するStep 1(セルフマネジメント&リーダーシップ)Step 2(反応的な感情のマネジメント)、そしてStep 3(トランジション)の全プログラムを受講してきた。さらに、同プログラムを自社にも導入し、社員全員で受講してきた経験もお持ちだ。

果たしてセルフマネジメントの導入は個人と組織においてどのように機能し、チームのパフォーマンスにどのようなトランジション(変容)をもたらしたのだろうか。

ジェレミーが吉岡さんに直接お話を伺った。

「フレッシュスタート」

ジェレミー:ちょうど 2 ヶ月前、ロサンゼルスの山火事で家が燃えてしまったんです。翌日見に行ってみたら、隣の家はほとんど無傷だったのに我が家は完全に焼け落ちていました。そんな中、9歳の息子が言ったんです。「パパ!フレッシュスタートだね!」って。その瞬間、人生のひとつのチャプターが終わった、だから全部手放そう、そう思えました。

今夜はトランジションについて話したいと思っています。吉岡さんにもとても興味深いトランジションストーリーがあります。過去を手放して、次に進んでいく────そういう “手放す力” って、実は誰にとっても必要なスキルなんじゃないかと思うんです。

私たちがTransformでやっているのは、あなたの内側で何が起きているかにフォーカスすること。そのひとつとして「あなたはその場にどんなエネルギーを持ち込んでいるのか?」ということを学びます。

「今この瞬間、自分はどんな人でいるんだろう?」

自分の内面で何が起きているのか、そしてそれが周囲にどう影響しているのか。そこに意識を向けないと、本当は見つけられたはずの新しい可能性を逃してしまう。私は、日本の生産性の国際ランキングが低いのは、日本の本音を言えない文化にも一因があると思っているんです。だって、本音を言えなかったら生産的な対話なんてできないですよね?

私たちがやろうとしているのは、そのダイナミクスを変えること。自分を正直に見つめるって、実はすごく特別なことなんです。それをできる人こそが、本当の変革を起こせるんじゃないかなと思っています。だからこそ、今日は吉岡さんと話がしたかったんです。彼はそれをやった人だから。

吉岡さんはTransformのプログラムを全部受けたんですよね。どうしてこの道を選んだのですか?そのときあなたの人生にはどんなことが起きていたのでしょう?

なぜセルフマネジメントなのか?

吉岡さん:はい。僕がセルフマネジメントを受け始めたのは 2020 年でした。僕の悩みはひとつで、会社とプライベートな自分、そのどっちを大切にするかでした。どっちも大切にすると色々と問題が起きるので、自分の中で答えを見つけたかった。

ジェレミー:それで、何が見つかりましたか?

吉岡さん:答えはすぐに見つかって、自分を大切にすれば会社も良くなるってことに気がつきました。ただ、それで答えが出たから終わり、ではなくて、やっぱり自分を大切にするためには自分を理解しなければいけないので、そういう意図を持ってTranformのセルフマネジメントプログラムを受けました。

実際にStep 1を受けてみたら、それまで自分のことを誰よりも理解していると思っていたのですが、そこには自分のバイアスがかかっていてひとつの方向からしか自分のことを見られていなかったことに気づきました。セルフマネジメントを通じて自分以外の視点で自分のことを見ることができて、自分の思考の癖が分かってきたので、そうやってより自分らしさが分かっていくのは楽しかったです。

ジェレミー:なるほど。優秀な人こそ「自分は正しい判断ができる」と思いがちなのかもしれませんね。でもあなたはそれを疑ってみるだけの謙虚さを持っていた。

吉岡さん:謙虚というか…もう限界だった(笑)。苦しかったかな。

ジェレミー:それで、変化はあなた個人の生活や会社の中でどのように立ち現れてきたんですか?

問題や答えはどこにあるのか?

吉岡さん:一番大きかったのは、自分の中の答えを自分 1人で見つける必要はなくて、他の人の力を使って自分の中の答えを見つけることが可能だって気づいたことかもしれないですね。

ジェレミー:そう、私たちはつい「問題は外にある」「答えも外にある」と思いがちなんですよね。ほとんどの人のデフォルトの考え方って、「問題は周りの人たちにある」と思うことなんです。でも、あなたはそこで「答えは自分の内側にあるかもしれない」って気づいたんですよね。それって本当にすごいことだと思いますよ。

それで、自分ひとりでプログラムを受けた後に会社にもセルフマネジメントを取り入れたんですよね。そのときどうやって紹介したんですか?

吉岡さん:すごい苦労しました(笑)。正直、社員は驚いていたけど、僕は自分の中に答えがあることに気づいて救われたって話をしたし、「何に悩んでいるかは知らないけど、人生において知っておくべき方法なので騙されたと思ってやってみて」と言ってやり始めたんです。そうしたら始めてすぐに変化があって。一番来ないと思っていた社員が参加して、シャイな人間なのにどんどん自分の扉を開けていったんです。

そこで気づいたのは、やっぱり誰もが自分のことを知りたいと思っているということ。その知りたい、変わりたいと思うことに投資したいし、みんなが変わりたいと思っている力が集まったら会社が成長するんじゃないかと思いました。

私たちは自分の体験を自分でつくり出している


ジェレミー:なるほどね。私たちは基本的に自分が持っている思い込みや期待、判断や感情的な反応から自分の体験を自分でつくり出しているんです。でも自分が持っている思い込みや期待ってなかなか自分では見えないものですよね。だから「変わらなきゃいけない」って頭ではわかっていても、具体的に何を変えればいいのかは分からなかったりする。

でも、自分の癖とか「この場面ではこういう反応をしがちだな」ということが見えてくると、自分の行動パターンが少しずつわかってくるんですよね。人は無意識のうちに色々な思い込みをもとに行動しています。例えば「本音なんて言っちゃいけない」とか、「言われたことだけやっていればいい」みたいな。そのような自分の深いところにある思い込みに目を向けないままだと、変わろうとしてもなかなか難しい。だからこそ、上司として社員が自分自身を安心して見つめられる雰囲気をつくることがすごく大事です。

吉岡さんの場合はどうやってそれを実現したんですか?

上司としての葛藤、そして自己開示の先にあったもの


吉岡さん:まずは僕が率先してシェアリングしました。でもそこには葛藤があって、自分の中に経営者の自分と個人の自分がいて、セルフマネジメントのセッションをみんなで受ける前にはそれらを使い分けていたんですけど、自分を開示することがもしかしたら自分の組織をばらけさせてしまうかもしれないっていう懸念があったんです。なので、初めは心の扉を半分しか開けなかったんですけど、僕がちょっと開けたらみんなが思った以上に開けてくれたから、僕ももっと扉を開くことができました。

例えばひとつのエピソードとして、「あなたは何にイライラしますか?」という問いに、 僕は渋滞にイライラしますって言ったんです。前に進んでいない、停滞していることに反応してしまう。そうしたら、それだけでみんなが僕という人間と自分たちとの違いに気づいてくれて、それからは「あのメールまだ送ってないよね」とか強く言いすぎたりする時って、渋滞にイライラしているのと同じだっていうことに僕もみんなも気づいたし、変なエネルギーが生まれなくなりました。そういう直接的じゃないのに本質的なエピソードを伝えられて、セルフマネジメントをみんなで受けて良かったと思えました。

ジェレミー:なるほど、面白いですね。やりとりされる情報の質が豊かになったんですね。

吉岡さん:そうですね。会社にいて本音と建前を使い分けていたんですが、自分の本音が伝わった気がします。それは僕というキャラクターをみんなが受け入れてくれた瞬間だし、僕が社員のエピソードを聞いてからはその人に合わせたマネジメントを自然とできるようになりました。この人はこういうキャラクターだから、部下としてではなく人間としてこういう言葉をかけよう、と当たり前のことができるようになったんです。

ジェレミー:お互いの思考や行動のパターンについてちゃんと話せるようになったということですね。

吉岡さん:そうですね。それが本当に良かったです。会社でセルフマネジメントを受ける時に僕が期待していたのは、社員それぞれが自分のことを理解すれば人生が豊かになることでした。それでみんなが幸せになればいいと思っていたんですが、みんなが自分を理解する過程で分かったことをどんどん伝えていったら、チームが強くなりました。そこに嘘がないので、渋滞のエピソードひとつだけでも物事がうまくいく。これを会社という環境でやれたのは大きかったと思います。

人が進化するために必要なプロセス

ジェレミー:今日みなさんにひとつ話したいと思っているのが「トランジションのプロセス」です。このトランジションって、実は人が進化していくプロセスなんです。古い世界が終わりを迎え、あなたは新しい世界に向かおうとしている。でもその新しい場所にたどり着くためには何かを変えていくプロセスが必要で、これまでの思い込みや行動パターンを手放したり、感情的な反応のクセを見直しつつ、同時に新しい考え方や習慣や反応のしかたを身につけてなければいけない。

ここが難しいところで、慣れ親しんだ古い世界はもう終わってしまっているのに新しい自分にもまだなれていなくて、宙ぶらりんの状態なんですよね。でもこれは人がいきいきと生き続けるために、誰もが通る必要がある道だと思うんです。

現代のよくある思い込みに、「自分はずっと同じままで、ただ前進すればいい」というのがあります。だけど、活力に満ち溢れている人ほどこういう変化のプロセスを何度もくぐり抜けてきているはずなんです。今の自分に合わないものを手放して、新しい何かを見つけていく。このトランジションって、生きることそのものなんですよね。でも、残念ながら誰もそのやり方を教えてくれない。吉岡さん、あなたの場合は何を手放したのだと思いますか?

吉岡さん:まず個人のセッションの時は、自分らしさを押し殺すという気持ちを手放しました。今会社でやっているのがまさにStep 3なので、ここから手放すっていうところなんですけど、僕が手放さなきゃいけないのは「もったいない」っていう気持ちかな。父親が物を捨てないタイプだったので、もしかしたら影響されているのかもなって。それを手放すことによって、自分にも会社にも影響を与えるんじゃないかと思っています。あと子育てとかに対しても同じですね。

ジェレミー:その変化は会社にどんな影響を与えたと思いますか?

吉岡さん:まだ手放せてはいないけど手放したいと思っていて、影響をこれから与えなきゃいけないと思ってます。

クリエイティビティの土壌を耕す

ジェレミー:おもしろいですよね。ここにいるみなさんは、おそらくなんらかの知識産業で働いていると思います。つまり、知識や情報を使って仕事をしていて、それを誰かと一緒にやらないといけない。そういうビジネスにおいては“かたちが見えないもの”がすごく重要です。人と人との関係性の中で生まれる、目には見えないエネルギーみたいなものが、実はクリエイティビティの「土壌」のような根本的な部分になっているんです。正直に言うと、日本が今伸び悩んでいるのもこの“エネルギーのマネジメント”がうまくいっていないからなんじゃないかと、私は思っています。

どうやったらみんなが自分らしく輝いている、イキイキしていると感じられるような雰囲気をつくり出せるのか?もしも、前提として常に戦闘モードに入っていたら、その人が持ち込むエネルギーは会社全体にどう影響すると思いますか?当然、みんな疲れ果てちゃいますよね。そして、自分がヘトヘトなのにイノベーションを起こせとか、新しいものを生み出せって言われても、そんなの無理な話じゃないですか。結局、誰も楽しめなくなってしまう。

だから「エネルギーを生み出し、それを伝える」ことが仕事の本質だと考えると、今吉岡さんがやっていることは根本的に大事なことだと思うんです。

吉岡さん:大事ですよね。僕たちがやっているブランディングというのは「信じる力」なんです。自分のブランドを信じる力だし、自分のブランドを信じてもらう力なので、そういう意味では見えないものってすごく大事です。うちのクライアントさんでよくあるパターンっていうのは、まず自分たちのブランドを信じていないっていうケースが多い。

ジェレミー:おもしろい。

吉岡さん:そう、なのでまずあなたたちはなぜそのブランドをやっているんですかって問いかけるってところから始めますね。やっぱり自分たちのブランドを信じていると、そこに対して事業の成果が出やすくなると思います。でも自分たちではなかなか気づかない。セルフブランディングを始める前に、まずは自分たちと向き合うことが大事なんですが、そこになかなか気づけないのは個人もそうだし、会社でも同じです。

ジェレミー:自分自身のブランドを本気で信じていなかったら、どうやって“いいブランド”なんて作れるんでしょうね?それに加えて常に戦い続けていて、いつもヘトヘトに疲れていたら、どうやって新しいものを生み出せるんでしょう?

吉岡さん:そう、信じられていないからうまくいかない。うまくいかないから、もっと信じられなくなるっていうパターンにはまりますね。困っていればいるほど外に答えを求めてしまいがちだけど、そうじゃなくて立ち止まって自分に向き合うことがとっても大事。でも今、世の中のスピードが異常なぐらい早くなってきていて、それができなくなってきていると感じます。ずっと忙しいし、なんか暇がない。だから自分が分からなくなっちゃうんじゃないかなという不安を感じます。

楽しむことを最優先にする

ジェレミー:私たちが大事にしている価値観のひとつは「楽しむこと」です。まず楽しむことを最優先にすれば、それがエネルギーを生み出しますから。私たちってつい自分自身を実験用のラットみたいに扱っちゃうところがあると思うんですよね、頑張ったらご褒美をあげる、みたいな。でもそこは逆にしたほうがいい。まずは「楽しめる人生」を作って、そこからエネルギーを得るんです。

結局はエネルギーの問題なんですよ。もし「楽しむこと」を人生の最優先にしたら、何が起きると思いますか?きっと、いろんなことが変わり始めますよ。吉岡さんは何をしているときが一番楽しいですか?

吉岡さん:いや、そうですね。楽しむ……楽しんでない…?(笑)
いや、実は今日新しいサービスのリリースがあって、すごく忙しくてラットだったんです。今話を聞いていてラットにならないでここまでたどり着く方法は何だったんだろうとずっと考えていて…(笑)。

僕は個人ではトランスフォームできたかもしれないけど、組織はまだトランスフォームできてなくてまだラットな時がある。だからそれを減らしていきたいし、そのためにはいろんなことやってかなきゃいけないと思いました。今日ジェレミーと話せたことも、何かのメッセージとして捉えています。

ジェレミー:吉岡さん、表情がすごく柔らかくなりましたよね。

吉岡さん:うん。変わっている最中だからだと思います。

ジェレミー:吉岡さんは、これから何をしていきたいですか?

吉岡さん:ちょっと先の話にはなると思うんですけど、いまいる会社のメンバーだからこそできる事業をやりたい。料理に例えるのなら、まずレシピがあってそのレシピにみんなを合わせるんじゃなくて、いいにんじん、いいじゃがいもがあるからカレーを作ろうという発想をしたいし、そういう組織を作りたい。このメンバーで音楽を奏でたい、料理を作りたいと思っています。

ジェレミー:何かを変えようとするとき「新しい人材を入れなきゃ」って考えがちですよね。でも、私が吉岡さんから学んだのは、今すでにいる人たちの才能をまったく新しい形で引き出すことができるということです。今日は、ありがとうございました。

吉岡さん:ありがとうございました。

(写真・文:佐々智佳子)

2024年4月に実施した、参加企業インタビューも合わせてご覧ください。
https://transform-your-world.com/interview-tonine/