【イベントレポート】400年の伝統から新たな魅力を創り出す現代アーティストと共に創作:固定観念を手放す2日間

Transformのセルフマネジメントスキルと、400年以上の歴史がある伝統工芸「有松絞り体験」を組み合わせたリトリート、第3弾を実施しました。

私たちTransformのプログラムでも度々お話しする「瞬間に意識を向ける」と「体験は自分でつくり出している」がキーワードとなった2日間。3回目となる今年はどのような学びや気づきがあったのか、実際の体験を通してご紹介します。

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【イベントレポート】有松体験リトリートセッション 第1部

【イベントレポート】有松体験リトリートセッション第2部

Beauty and unpredictability:予測できないことの美しさ

今年の参加者の皆さんは、「とにかく作り続ける」という姿勢が特徴的でした。およそ半数がリピーターでしたが、リピーターの方々が待ってましたとばかりに勢いよく作品を作る姿を見て、初参加の皆さんもその波に乗るように作品作りに没頭する、そんな姿が印象的な2日間でした。

染色の伝統技法

有松絞りは布を糸で縛って染色をします。糸で縛るとき内側になる部分には染色液が浸透しにくくなる特性を活かして、独特の模様を生み出します。

作品を作る際に頭の中でデザインを考え、イメージした模様になることを想定して布の形を作ったり道具を使って染色しますが、染色後に糸を解くまで実際にどうなっているかは予測できません。

染色家 藤井ショウジさんは

思い描いていた模様とは違うものができたとしても失敗ではなく、自分では予測できずコントロールできないことから生み出される模様の美しさがある

といいます。

手を動かして作る過程に起きる無自覚の思考パターンや、思いがけないものが出来上がった時に湧き起こる自分の反応や感情もまた、人間らしい美しさなのかもしれません。

進化

昨年までは伝統的な藍色のみを使って作品を作っていましたが、今年は黒、黄色、ピンクが新たに登場。さらに色を混ぜて新しい色を作ることもできるとあって、参加者の皆さんの創造性が急上昇していました。

さらに、これまでの手法だけでなく、折り畳んだ布にスポイトで色を落として染める「万華鏡染め」も新しい手法としてチャレンジしました。

ベーシックな藍色だけでなく、カラーバリエーションが増えることで表現の幅も広がり、出来上がりが予測できない不確実性も格段にアップしました。とはいえ、意図とは違えど偶然から生まれた美しさをより深く体験することができました。

作品テーマは「波」

2日目の朝にテーマ「波」を設定し、意図を持ちながら各々が創作にあたりました。

午後には自分たちの作品を並べての発表会。ひとりひとりが作品の意図やストーリーを全員の前で発表しました。

言葉ではなく形にすることで、それぞれが考える「波」が表現されるとともに、参加者一人一人の視点の違いやその背景が引き出されました。

フロー体験

今回とても印象的だったことの一つとして、多くの人が作品作りの最中に「フロー状態」になっていたことです。

フロー状態とは、心理学用語で、何かに没頭して集中している状態を指します。この状態では、時間の経過に気がつかなかったり、外からの刺激を無視したりするなど、他のことを忘れてしまうような感覚になります。

また、自分の能力を最大限に発揮することができたり、集中力が高まったり、クリエイティビティが高まるなど、目の前の作業に無理なく集中できる感覚にもなります。

ある参加者の方は、実際にその状態になった時に何時間も一つの作品をコツコツと作られていました。自分でもなぜあそこまで集中できたのか分からないとおっしゃっていましたが、時間を忘れて没頭し、出来上がった作品は唯一無二の素晴らしい作品となりました。

参加者全員で作る10mの反物

今年はショウジさんのご提案で、参加者全員で10mの反物にランダムに染め、それを切ってお土産にしました。

小さく折り畳まれた反物にカラフルな色を付けていきます。

どのような模様になるのかは全く予想がつきません。まさに今年のテーマ「予測できないことの美しさ」です。

外に出て広げてみると、参加者から「わー!」と歓声が上がるほど美しい作品が出来上がりました。

全員で作ったこの作品をお土産として持ち帰ることで、この日の思い出はもちろんのこと、作品作りを通しての体験がまた鮮やかに蘇るのではないでしょうか。

Kagonotori (カゴノトリ)藤井千尋さん(左)、藤井ショウジさん(右)

参加者の声

Q. どのような発見や気づきがありましたか?ワークショップの前後で何か変化はありましたか?(意識の向け先や身体感覚に何か変化はありますか?)

◆手間を惜しまずに取り組むって、自分の中で終わりがないが故に辛いイメージがあったのですが、あ、このひと手間を楽しく全力で没頭する積み重ねに、未来があるんだなと。未来のために手間かけるのではなく、ひと手間を大切にする積み重ねの結果が未来なんだという体験を通じた気づきは、私にとってかなりのインパクトでした。

◆アートに触れ、ものづくりを通して自分の内なる考えや思考を表に出すことができるという発見があった。

Q. その発見や気づきがどう日常に活かせそうですか?

◆日常のちょっとした行為をちょっと軽やかに丁寧に取り組みたくなる自分がいます。

◆今後の自分の生き方について再度考えるきっかけになった。頭で思考することも大切だが、直感や感覚に頼って進んでみるのも良いのではないかと思えた。

Q. 一番インパクトがあったことは何ですか?

◆作品作りにおいて、どこのタイミングを終わりにするのかって正解はないわけで、自分の中で、よしこれで終わりにしよう!終わりでいいんだ!と心から納得して終わらせれたのも素晴らしい体験だったなと思います。

◆素晴らしい日本画や油絵、彫刻を見ることはできても、実際に作家からその技法を聞くことはなかなかできることではないので新鮮だった。