【イベントレポート】Transformスペシャルセッション:Create inner space ~ 煙道を体験する

Transformと煙道の出会い


「面白い人を見つけたから、コンタクトをとってみてくれない?」
ジェレミー・ハンターが盛岡旅行から帰ってきた後チラシを持って帰ってきてTransformメンバーに伝えたことからこの体験は始まりました。

その「煙道」を教えてくださったのは、風情研究家で煙アーティストとしても活動されている大地漠さん。
日本人の自然と調和する生活様式と風情を感じる心の文化を受け継ぎ、心ゆたかな暮らしを届けるものづくりを行うと共に、日本らしい風情ある生活様式の新たな可能性を研究しています。

陶芸とお香を組み合わせた空間芸術体験「煙道」とは一体どのようなものなのか、そして参加者の皆さんが体験を通してどのように感じたのかをお伝えします。

煙道〜煙の彫刻〜


いざ、煙の世界へ

ワークショップは真っ暗闇の中で行われました。
静かな暗闇の中、お香が燃え尽きるまでのひとときを味わいます。

参加者の皆さんは静かに煙の様子を眺める。
ただそれだけ。

(大地さんインスタグラムより)

「暗闇に身を包み時間を忘れ、日常生活から離れ、命が宿ったかのような煙の動きにぼんやり、うっとりとしている時間。
自分の内側から浮かび上がってくる言葉や感情、記憶の数々。
言葉になりきらない、うようよした感覚。
何も考えずぼーっとながめているだけかもしれない。
こんな時間の流れ方もあるんだなと感じさせてくれる。

ゆったりとした動きに、香りに、音楽に、気づけば心が静かになっている。

美に触れる喜び。
感性が刺激され、感覚が開いていく喜び。
身の回りの自然と接続できる喜び。」
(大地さんインスタグラムより一部抜粋)

大地さんが煙にたどり着いた背景

質問:大地さんが煙にたどり着いた背景を教えてください

風情を味わう暮らしをつくる、というコンセプトの下、2023年から造形作家&煙道に取り組んでいます。

そもそもの始まりは、2018年にデザインと出会ってから。
「見えないものを見える化する」という事に浪漫を感じていたといいます。
日常生活の中で、「なんかいいなぁ」と心の琴線に触れる体験を集める事をライフワークとして行ってきた事がきっかけだとのこと。
・風鈴のチリンチリン
・雪を踏むザクッザクッ音と足に伝わる触感
・縁側で聞こえてくる雨垂れの音
・夜に間接照明で暗さと暖かさを味わう

こんなふうな自然現象と人の繋がりが、僕のものづくりの源泉になっています。2021年くらいから、思い描いてきたものづくりに挑戦したいと思うようになり、色々な実験を始めました。

2年程前に「夜を味わう」というテーマで煙に着目していた時に、初めて煙の美しさに出会いました。
その時の衝撃がとてもセンセーショナルで、かつ「夜の時間」もとても好きで、関心も強かったこともあって、「これはやらざるを得ない」と直感で感じて、煙のアートに取り組み始めました。

セルフマネジメントと煙道

「日常生活の中の美を追求するのがミッションである」と言う大地さん。

「身の回りでどこにでもあって、常にそばにあるんだけど気づかない、通り過ぎているものが多いと思うんです。
そういったものたちに気づいて、心揺さぶられる瞬間を日々探すのが習慣になっています。
障子や風鈴は自然と人との間に存在するもの。
水たまりに雨粒が垂れて波紋が広がることが好きです。

ただ、人はそれに気づけないこともある。
そこに美しさを感じて初めて、人と自然の間に意味が生まれる。

そういう感性を開いていけば、そういったものに出会える機会が増える。
そういう間に存在するものを作ってあげたら、皆さんの感性で気づけるものが増えるのではないでしょうか。」

大地さんが言うこの感覚は、ジェレミー・ハンターが【有松日本遺産記念シンポジウム 後世に語り継ぎたい有松の美~日本遺産有松の未来30年のために~】で語っているこの言葉に重なります。

「私達日本人は、日常的に接しているものを「美しいもの」として捉えずにマインドレスネス(自動操縦状態)になっている。どれだけ日本に既にあるものが美しいかを知って欲しい」

「煙道」体験のダイアログ

煙を眺めたあと、暗闇の中での体験を参加者同士でシェアしました。感じることは様々で、自分の内側で感じたことをアウトプットしながら、他の人の言葉を聞いてさらに気づきを深めていく時間となりました。

多くの方が煙に「生きている」「踊っているように見える」「感情的」といった「人」を投影し、赴くままにゆらめき、大小様々な煙が出てくる姿に「自由さ」を感じていました。時間、命、エネルギーといった目に見えないものを煙が可視化し感じる、一瞬の美しさと尊さ。
中には「実は今までお線香や煙は嫌いだった。なぜならば死を連想させるから。でも今回煙を見ているとまるで生きているようで、概念がすっかり塗り替えられた」という方も。
さらには、煙がまるでお子さんの名前のように見えたという方もいました。

大地さんは、「日本人に共通して持っている「風情」という感性。煙が出てこない時にどのように感じ、そのままならなさもどう受け入れるかも面白いところ」といいます。

日常にある嗜好品を深める

美味しいコーヒーは今やどこでも手に入る時代。一方で、こだわりを持つ人も多い嗜好品でもあります。今回は、コーヒーにこだわりを持つTransform メンバーの千葉紘子が、ランチ後の一服として「コーヒー道」も体験してもらいました。

味覚の多様性


今回の体験は、「グァテマラの同じ生産地で作られた豆が、焙煎度合いの違いでどのように味が変わるのか」というもの。浅めに焙煎された豆は酸味を感じやすく、深めに焙煎された豆は苦味を感じやすいことが特徴。参加者の好みによっても好き嫌いが別れるので、同じものを飲みながら「自分は浅い方が好き」「自分は深めの苦い方が好き」「自分は少し砂糖を入れた方が好き」など、違いを感じながら自由な対話が生まれていました。

新しい楽しみ方の発見


どこでも飲めるコーヒーに「新しい体験」として、カレーなどで使われるスパイス、カルダモンが用意されていました。参加者は驚きつつも、ブラックコーヒーに振りかけたり、ミルクと合わせて飲んで「意外といける」との声も。コーヒーを飲む時に、そもそも選択肢になかったスパイスが新しい選択肢として生まれた瞬間とも言えます。


参加者の声

Q. 煙WSについて印象に残ったことや、ご意見ご感想などあれば教えてください。

◆ 煙を眺めること、対話、そこで生まれる新たな気づき、すべて素晴らしかったです。ぜひ研修としても実施してみたいです。その設計について考えていくのも楽しみです。また研修ではなく、ただずっと煙を眺める会もやってみたいです、整いそうな気がします。

◆ 大地さんが風情の話をしてくれた時に、自然と人間の間、という話をされていて、日ごろ人間中心の環境/考えで生きていて、自然を感じる機会が少ないな、自然を感じながら心を豊かにする時間を増やしていきたいなと思いました。

Q.セッションに参加していかがでしたか?

◆仕事以外の時間はほとんど娘&家庭に投入され、夫婦の会話も娘のことが中心となる中で、このイベントは家族で新しい体験ができ、新しい会話の切り口にもなる貴重なリソースとなっています。

◆ 細部に及ぶ拘りを感じることのできるセクションばかりで勉強になりました。

Q.どのような発見や気づきがありましたか?

◆何かに夢中になっている人は、その偏愛ぶりが素敵なこと。

◆4つの器から立ち上る煙を見ながら、生物の一生、エネルギーを感じるようでした。器はその人の性質や成熟度のような、あらかじめ備わったもの。
そこから立ち上る煙は、生きるエネルギー。
風の動きに抗うことなく、自由に、その時々の自分を生きることが素晴らしい、美しいのだなと感じました。

Q. 発見や気づきがどう日常に活かせそうですか?

◆ 自分にとって自然なことを選択し、グリーンゾーンでいること。

◆前に比べるとだいぶ出来るようになってきましたが、余計な肩の力を抜く、変に変えようとしない、を意識する。周りと比べないで、自分や娘の今の状態を見て次の動きを決める。

Transformはこれからもセルフマネジメントと別の視点を通じて、セルフアウェアネスを高める体験を提供していきたいと考えています。


大地漠さんインスタグラム