【イベントレポート】Beauty and unpredictability〜予測できないことの美しさ〜:400年の伝統から新たな魅力を創り出す現代アーティストと共に創作する2日間(2025年)

400年の伝統を持つ有松絞り。

その技法を受け継ぎながら、新たな表現を生み出す現代アーティストで染色家の藤井ショウジさん(プロフィールはブログ最下部をご覧ください)とのコラボレーションプログラムも今年で3年目。

ジェレミーも同席するこのプログラムは年々進化し、毎回新しい気づきも多く、私たちもとても楽しみにしているイベントです。

「予測できないことの美しさ」をテーマにした今回の2日間、参加者や私たちが体験したことや得た気づきをお届けします。

これまでのレポートはこちら

2022年レポート第1部第2部2023年レポート第1部第2部2024年レポート

予測できないことの美しさ—400年の伝統が教える、試行錯誤のクリエイティビティ

今回のプログラムは、2年ぶりに参加する方、毎回足を運んでくださる方、そして初めてお子さんと一緒に参加される方、と背景も経験もさまざま。大人も子供も関係なく、楽しみながら真剣に創作活動を行いました。

体験したことがある人も、久しぶりの創作なので最初は記憶を辿りながら進めます。徐々に身体が自然と動くようになり、身体の記憶力に驚きを感じます。

ショウジさんは今年も新しい染め技法を紹介してくれました。好奇心旺盛な皆さん(特にジェレミーと子供達)は、早速その技法に挑戦します。

万華鏡のような染め上がりになる万華鏡染めをベースに、折り方や染める場所を変えながら予測できない結果を楽しむ人。イメージするものを作品に宿すために、何度も試行錯誤を重ねる人。

この体験は、絞って染めて、糸を解いてすぐに「結果」がわかります。自分の意図したものと実際の結果をもとに、次の創作プロセスに繋げていきます。いわゆるIRマップのプロセスを高速で回しているような感覚です。

自分のクセやパターンが表出する創作プロセス

意図していなかったけれど良い仕上がりになったと感じたり、自分は成功したと感じていない作品でも、他の人からの感想で作品の捉え方が変わり、「案外良いかも・・」と認識が変わることが多いのも、有松絞りの面白さといえます。

今回は和紙も登場し、好きな絵をマジックで描いてから、好きな色で染めるという「絵と染めのコンビネーション」は、楽しく唯一無二の自分だけの作品になりました。

「今までの自分のパターンとは違うやり方を試してみた」という参加者もいます。これまでは「なんとなくやる」という意図がはっきりしない状態で作品を作っていたけど、。今回はクリアに意図を持ち、そのイメージに近づけるために試行錯誤してみたと言います。うまくいかないこともあるけど、その都度立ち止まって考え、周りの人に教えてもらい、試してみる。できたものは、当初意図していたものとは違うけれど、新しい自分のパターンから生まれた作品は、より愛着がもてるものになったといいます。

興味深いのは、他の人からの感想やフィードバックによって違う見方が手に入り、作品の意味がより深まる感覚があったということです。

思ったように色がついていない、、と少し残念に感じていた時に、「これ、紫陽花みたいで綺麗ですね」とコメントを頂き、ハッとしました。事前に想定していた結果に執着していたり、「自分が最初に決めたことを達成しないといけない」というような固定観念があると、別の視点から見える美しさを見落としてしまうことに気づかされました。

「勘考」—考えて、やってみて、また考える

ショウジさんが教えてくれた言葉があります。

勘考(かんこう)

この言葉は、有松地域で古くから使われてきた方言だそうです。
辞書には「深く考える」としか載っていませんが、その意味はもっと深く、あるもので何とか工夫して問題を解決すること。ショウジさんは「こうやったらこうなるよね」という理屈や仮説を工夫して実践してみる、一連のプロセスを表現する言葉として、「勘考」がしっくりきたと言います。。

ショウジさんは、幼少期におじいさんから「よく勘考したな」と褒められた記憶を語ってくれました。その感覚がずっと心に残っているなかで、自分が作品を創るときにやっていることを表す言葉が「勘考」だと気づいたそうです。

参加者の一人は、「ショウジさんの、考えてから作る、ではなく、作ってから考える、というお話しが、自分の仕事へのヒントになりました」といいます。

この「勘考」の中で、作品は深まり、自分自身の理解も深まっていく。伝統技法が400年続いてきたのは、この「勘考」のプロセスが脈々と受け継がれてきたからかもしれません。職人たちは、予測できない結果と向き合いながら、技を磨き、新たな表現を生み出してきました。

予測できないことは、不安定さでもあり、可能性でもあります。

意図を持つこと、手を動かすこと、予測と違う結果を受け止めること、そして人と対話すること。意味が変わっていくことを受け入れること。その繰り返しの中で、作品は唯一無二のものになっていきます。

あなたにとって、「予測できないこと」は、どんな意味を持つでしょうか。コントロールの外にあるものを受け入れたとき、何が生まれるのか。400年の伝統が問いかけるのは、そんな問いかもしれません。

参加者の声

グリーンゾーンを広げるとは、想定外の結果が出た際、受け止めて、美しさや意味を見出す感性を育てることなのかもしれない、と気づき、日々の生活でも意識してみます。

2年前の自分に比べて力が抜けて、自由度が広がったような気がします。それを作品を作っている時に感じました。手法に対するこだわりを捨て、作りたいものを起点にいろいろ試したり、偶然できたものを楽しむには心の中にスペースが必要で、それに気づけたのが嬉しかったです。

子どもの成長を感じる場面が多くありました。普段はあまり見せない集中力やクリエイティブな面が見られたのがありがたかったです。

【講師】Kagonotori (カゴノトリ)藤井ショウジ・千尋

藤井ショウジが2008年に有松絞りと出会い、以降、絞りと染めの技術を独自に研究。伝統技術をベースに多数のオリジナル技法を開発し、デザイン、素材開発、絞り、染めを一貫して行う。

2021年に「カゴノトリ株式会社」を設立し、2022 年に妻・千尋とともに「Kagonotori」として夫婦2人体制での作品制作を開始。

年国内外での作品展示やコラボレーションプロジェクトにも積極的に取り組んでいる。

(藤井ショウジ来歴)
2008年 地場産業×名古屋市立大学共同事業で絞りと出会う
2010年 国内伝統産業の研究のため全国行脚を敢行
2011年 Haystack Mountain School of Art and Craftsの奨学生に選定され渡米
2018年 ニューヨーク、ロンドンで作品発表
2019年 G20愛知・名古屋外務大臣会合で愛知県からの贈呈品に作品提供
2021年 豊田市足助町篭ノ鳥で「カゴノトリ株式会社」を設立
2022 年 有松日本遺産記念シンポジウム「後世に語り継ぎたい有松の美」幹事  

(藤井ショウジ・千尋来歴)
2022年 妻千尋とともに夫婦絞り染めユニット「Kagonotori」始動
2024年 山本寛斎事務所プロデュース羽田空港「JAPAN MASTERY COLLECTION」作品提供